組織で用いる理想的なコンピューターとは

 パソコンが登場する以前のコンピューターは月のリース料が一億円から二億円と言われていました。
 このように高額ですので、使えるところも大手企業や政府の研究機関といった組織に限られていました。

 組織は、一つのことを皆で協力する「分業した仕組み」ですから、効率的な半面、組織内の円滑な情報のやり取りが求められるという特徴があります。

 そのために、当時のコンピューターは、情報の共有を前提に開発されていました。
 現在のATMもそうですが、一つのデータベースに複数の端末機が接続していて、使用者は、これを通して情報のやり取りを行うというものです。

ファイルの持つ「もの」と同様の性質

 多くの組織で用いられるようになったパソコンは個人向けに開発されたものですから、組織向けのコンピューターに必要な「情報の共有」との考えは、もともと持ち合わせていません。

 構造的にも、従来のコンピューターが情報をデータベースに保存しているのに対して、パソコンは一般的にファイルに保存します。
 それまで会社に存在していた書類や図面は、パソコンの導入により、次第にワードやエクセル等のファイルに姿を変えました。

 ここで注意していただきたいのは、○○打ち合わせ書という書類は、○○打ち合わせというワードファイルになり、○○収支報告書は、○○収支報告というエクセルファイルになるように、ファイルが図面や書類の数だけ発生することです。

 このことは、一万枚の書類や図面が存在していた会社では、パソコンの導入により、ファイルが一万個存在するようになることを表しています。
 ファイルは、電子データでありながら数の概念のある、まるで「もの」のような存在なのです。

検索機能で目的のファイルを探せない

 コンピューターの利点と言えば、情報量が増えても一瞬で処理を行えるところです。
 ところがパソコンでは「情報量が増えるとファイルの数が増えて探すのが困難になる」と、言うのです。
 ファイルには、従来のコンピューターの常識が通用しないと言えますが、「検索機能が使える」利点もあります。

 そのために「検索機能を用いて目的のファイルを容易に探し出せないか」となるわけですが、実際には、大勢の人が作成した多数のファイルが存在する共有フォルダでは、目的のファイルのファイル名が分からないことが多く、上手く検索機能が機能しないのです。

現場はファイルの整理整頓を指向している

 パソコン担当者の方は、経験的に検索機能が上手く機能しないことを知っているので、ファイルを整理整頓して、「目的のファイルを容易に誰でも利用できるようにしたい」と、考える方が多いようです。

 この、「ファイルの管理に整理整頓を用いる」という方法を、皆さまはどのようにお考えでしょうか。
 疑問を持つ方もおられるのではないでしょうか。

 と言いますのは、コンピューターの専門家で「パソコンの運用にファイルの整理整頓が必要」と、言う方はいませんし、マイクロソフト社を始めとするソフトメーカーにしても、そんなことを言っているところは何処もないからです。

ファイルを整理整頓できない理由

 皮膚感覚で現場を把握しているパソコン担当者が、ファイルの管理に整理整頓が必要と考えても、これを上手く出来ない方が多いことが分かってきました。
 共有フォルダのファイルを上手く整理整頓出来ないのには、何か理由があるのでしょうか。

 ここに、径の違う三種類のボルトとナットがあるとします。この、ボルトやナットを整理整頓して、分かりやすくしたいと思います。皆さまなら、どのようにするでしょうか。
 ボルトとナットを分け、これ等を径毎に分類されては如何でしょう。
 分けたものをそれぞれの箱に入れ、ボルト・径13、ナット・径16というように箱に書けば、探すのが容易になります。

 このことから、整理整頓は分類であることがわかり、分類する人と、探す人が存在することが分かります。
 分類する人は、探す人が分かりやすいように分類して、探す人は、それがどのようなルールで分類されているのかを読み取ろうとします。

 そして、分類のルールを読み取れた時に、「もの」を容易に探すことができます。
 その場合には、探す人が分類のカテゴリーや、下層の分類との関連性を理解しますので、総当たりではなく、分類から次の分類に移動して、容易にターゲットを絞ることができるのです。
 このように整理整頓が役立つのは、探す人に分類のルールが伝わった場合に限ります。

 それでは逆に、分類された状態からルールを読み取れない場合には、どのようになるのでしょうか。
 それは、「何が何処に分類されているのかわからない」と、いうものです。
 しかし、これでは整理整頓の価値はなく、わざわざ分類する必要もありません。
 
 そしてこれは、「共有フォルダの何処に何のファイルが入っているのか分からない」という、オフィスの現状と同じなのです。

 「もの」を探す人は、整理された状態の全体像を把握し、次にどのような傾向で分類されているのかを読み取ろうとします。
 ところが共有フォルダでは、フォルダの階層が複雑になることが多く、その場合には全体像の把握が難しくなってしまいます。全体像の把握ができなければ、分類の傾向も分かりません。

 共有フォルダのようなフォルダ型ソフトは、フォルダの構造が複雑に成り易いことから、全体像の把握が難しくなり、分類のルールを伝えられなくなってしまうのです。
 フォルダ型ソフトのこのような構造が、ファイルの整理整頓を難しくしています。